志真の記録

内向的人間のちょっとした発信。

子どもの家

「可哀想だなって思った、色んな意味で」

 

「色んな意味で?」

少年は笑いながら聞き返してくる。

 

「本当に、子どもみたいな大人っているんだなって。ひと回り以上も年下の私にそう思われたことも、可哀想だよね」

 

「ふーん」と、少年は、ゴロゴロとした氷が入ったコップを傾ける。

 

飲んでいるのはオレンジジュースのはずなのに、

その大人びた表情のせいで、アルコールが入っているかのように錯覚してしまう。

 

「君は、なんていうか逆だよね」

 

「逆?」

 

「子どもなのに、大人みたいだ」

 

「あぁ」

 

少年は、ふっと、少しだけ頬を緩ませた。

 

「ここではね、たくさんの大人が、僕に話をしてくれるんだ。

お姉さんがさっき言ってたように、

あぁ、この人子どもみたいだなーって、思った人もいたなぁ。

さっきのお姉さんの話でいうと、

僕みたいな子どもにそう思われて、可哀想ってことになるのかな」

 

少年はちらりと視線を寄こし、ニヤリと口角を上げた。

 

「とにかく、たーーっくさん話を聞いたんだ。

まるで僕自身が、その人たちの人生を歩んでいるみたいにね」

 

「君は、ずっとここにいるの?」

 

「僕はずっとここにいるよ」

 

「ここがお家?」

 

「ううん、お家はねぇ、あ、ここのドアを出たら見えるんだ。

ほら、あそこ」

 

少年の無邪気な雰囲気とはかけ離れた、

1ミリもずれることが許されないような、整えられた庭園がちらりと見える。

奥にそびえ立つ建物は、見ただけで体がきゅっと引き締まってしまう程の威厳がある。

 

「じゃあ、住んでいるところはあそこなんだね」

 

「ううん、僕はここに住んでいるんだよ」

 

「あそこがお家なんでしょう?」

 

「うん、だけどあそこには、子どもみたいな大人しかいないから、

僕は住めないんだ」